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吉永俊朗の内外情勢ぶった切り

吉永俊朗の内外情勢ぶった切り

良い金利上昇・悪い上昇

良い金利上昇・悪い金利上昇

                            経済・国際問題評論家  吉永俊朗

米国の長期金利が上昇してきた。米最長期債の30年物国債利回りは、2月末の4.5%から1カ月余りで0.5ポイント上昇、4月に入り2004年12月以来の5%台に乗せてきた。特に最近の上げは急ピッチで、直近10日間で0.3ポイント上昇している。

一方、米短期金利は過去2年連続して引き上げられている。2月1日に米連邦準備理事会(FRB)議長に就任したバーナンキ議長は、3月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引き上げ、年4.75%とした。FRBのFF金利の引き上げはグリーンスパン前議長時代の2004年6月から連続15回、累計3.75%の引き上げになる。

こうした短期金利の引き上げにもかかわらず、長期金利は低下してきた。米30年物国債利回りは2004年5月の5.5%から、2004年秋以降は概ね5%以下で低位安定している。グリーンスパン前議長は昨年2月の定例の議会証言で、FF金利引き上げにもかかわらず長期金利が低下してきたことについて「現在のところ謎だ」と述べ、「世界全体の貯蓄の相当部分が国境を越えて移動するようになったことや低インフレ・低い資金需要、あるいは投機の行き過ぎが影響しているのかもしれない」と述べた。

グリーンスパン前議長が「謎」と呼んだ長期金利が、ここへきて漸く上昇してきたわけだが、それでもFF金利引き上げに踏み切った2004年6月当時の長期金利の水準に比べ、まだ0.5ポイント低い水準である。グリーンスパン前議長が「謎」と呼んだ水準が、単にオーバーシュートしていた可能性もある。相場は常に行き過ぎるからである。それを裏付けるように、昨秋以降、米長期金利と米株式市場が同時に上昇している。

短期金利が上昇する一方、長期金利が低下したり上がらないことは、決して良いことではない。短期金利に比べて長期金利が余り高くない状態が続けば、金融機関の収益が落ち込み、次第に景気が悪くなるからだ。したがって、最近の長期金利の上昇は健全な状態に戻る「良い金利上昇」といえよう。短期金利の上昇にしても、「景気が良いからFF金利が上がる」のである。短期金利にしても長期金利にしても、上がりすぎると経済に悪影響を及ぼすが、いまのところ「悪い金利上昇」ではないと思う。

東京商工リサーチ「TSR情報」(2006年4月20日号)



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